学業団 第一章 3その夕方……おれは河川敷に寝そべって、その「大きな任務」のことをいつまでも考えていた。 しかしどれだけ考えても、ロクな案がうかばない。 市長の家で集団ピンポンダッシュをするとか、クラス全員で授業を抜け出すとか。 だからこういうの考えんのはダメだって言ったのに。あ、言ってはいないか。 でもあの剛のことだから、どうせおればっか頼りにするに違いない。 あーあ、どうすっかなあ……。 その時、おれの頭の上で声がした。 「あれ?裕基君?」 夕焼けの空を見ていたおれの視界に、さかさになった夏香の顔がうつった。 「わっ!な、夏香?」 「そんなに驚くことないでしょ。どうしたの?こんなところでムズカシイ顔しちゃって」 夏香はおれの隣に腰を下ろした。 「お前は考えたのかよ。あの剛にいわれたやつ」 「何のこと?ああ、あの大きめの任務をするってやつか。あたしは……まだね」 「ふーん」 おれはまだ寝そべっていた。 任務中だったら、手をつなごうがなんだろうが平気ななのに、二人きりになって目をあわせてしゃべろうとすると、舌がうまく回らない。 他の女子ならそんなことないのに……。 「もしかしてそれを考えてたわけ?」 「そのもしかして、だ。どうせあいつのことだから、おればっか頼りにするんだろ」 「あはは、言えてるかも」 そう夏香が言うと、しばしの沈黙が訪れた。 常に上を向いている状態のおれにとっては、イヤな沈黙だ。 これじゃ夏香の顔も見れないから、この沈黙にどう対処すりゃいいのかわからない。 ええい、しゃらくせい! おれは自分に一喝すると、腹筋を使って起き上がり、夏香の顔を見た。 夏香は意外にも微笑っていた。夕日が夏香の顔をオレンジ色に染めている。 こういう時の沈黙って、あえて破らなくていいよな? ということで、おれも同じように夕日を眺めることにした。 川が光を反射してキラキラと輝いている。 都会じゃ出会えない光景だぜ? 「ここって景色いいわよねぇ……」 しばらくして、夏香が口を開いた。 「ああ、そうだな」 「あたしはここらへんを走りこんでるからわかるんだけど、ここって日によって景色が変わるのよね」 「あ、それわかる。おれも何か考えたい時はいっつもここに来るから」 「そうなんだ。でもめったに会わなくない?」 「そういやそうだなあ」 「わかった。裕基君のことだから、たいして考えることがないんじゃない?」 おれはふきだしそうになった。 「なんだとぉ。おれだって考えたいときはあるんだぜ」 夏香は軽快に笑った。 「冗談だって。そういえば今何時?」 「え?5時半だけど?」 「本当?まだ半分も走ってないよ。まずいな」 夏香は立ち上がって足を回しはじめた。 「なんなら家まで送ってやろうか?」 おれはニヤリと笑った。 こんな冗談を夏香の前でさらりと言いのけたおれに乾杯。 「あたしの持久力についてこれるんならどうぞ」 夏香がすばやく切り返した。 「ちぇっ」 おれは笑った。 いつもながら夏香はこういう受け答えがうまい。 「ふふっ。じゃあね。明日のためにネタ考えときなよ」 「わーったよ。じゃあな」 その言葉を最後に、夏香は走り去り、おれたちは別れた。 それからおれは必死にネタについて考えたが、結局何も思いつかないまま家に着いてしまった。 「ただいまー」 「おかえりー。ちょっと裕基―」 「んだよ」 おれがリビングに入ると、テレビを見たまま母さんが一枚の封筒をひらひらさせていた。 「ほら、裕基宛てに変な手紙が届いたわよ」 「変な手紙?」 おれは母さんから封筒を取ると、宛て名を見た。 ―学業団 桐本裕基 様へー こいつ、学業団のことを知ってんのか? 変なのはそれだけじゃない。 差出人が書いてないのだ。 どういうことだ? 「中身を読むなら自分の部屋に行きなさいよ」 「ああ」 自分の部屋に上がって封を切ると、中から質素な便箋が出てきた。ぱっと見はレポート用紙に似てる。 そしてその文面にはたった一言、こう書かれていた。 ――緑丘中の校長をこてんぱんにしてくれませんか?―― ←Back ↑Home Next→ ジャンル別一覧
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